2009.07.08

291 雨の朝の口笛

 小雨の朝、傘をさして、次男と二人、バスを待つ。

 道の向こう側から、自転車に乗ったおじいさんが走ってきた。

 少し煤けたように見える顔は日に焼けていて、オレンジ色。

 ハンドルの片手には、アルミ缶がいっぱい入った袋。

 もう片方には、なぜだか洒落たバッグ。

 裾の短い黒いズボンをはいて、ゆっくりと通り過ぎる。

 私は軽く会釈した。

 私たちの姿を視界に入れた頃から吹き始めたおじいさんの口笛。

 去っていく後ろ姿。

 緑の小道に口笛の音色が響く。

 耳を澄ませてみるとそれは、この季節にとても似合う歌だった。

   あめあめ ふれふれ かあさんが

   じゃのめで おむかえ うれしいな

   ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ

   らんらんらん

 おじいさんが、きっと私たちの姿を見て吹いてくれた口笛。

 小道に響いた音色は、とてもとても美しかった。

 あおがとてもきれいな紫陽花や

 澄んだ星空、輝く月のように

 とてもとてもきれいな音だった。

 おじいさんは無意識だっただろうけれど、

 おじいさんの少年の頃を思い、泣けそうになる。

 ありがとう、おじいさん。

 あなたも、私たちも、今日もよい一日を。

          

                  

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2009.04.24

251 美しい余韻

          
 ジャムを煮たフライパンで

 翌朝 フレンチトーストを焼いたら

 ほんのり 苺の香りがした。

 日常も こんな風に

 美しい余韻に 新しいよろこびを

 重ねていけたら いいのにね


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 草彅くんについては、気の毒でならない。
 彼がそこまでため込んでいたものは何なのか?
 キャンセル、中止の数々に、背負わされていたプレッシャーの重さを思う。それが職業と言えばそれまでだけど、職業を選択する意志が芽生える前から芸能界というところに入れられてしまったわけで・・・。だいたい、34歳にしてアイドルと呼ばれてしまうこと自体おかしいわけで。彼自身の幼稚化というよりは社会の幼稚化を痛感する。メディアは彼に「いいひと」を押し付けてはいなかったか。
 私は酔っ払って裸になったことがないので、本当の気持ちはわからないけれど、深夜服を脱いで雄叫びをあげるという野性に彼を走らせてしまったのは何だったのか(まったく何も憶えてないだろうし、何もないのかもしれないけれど・・・「全然憶えてないんですよねっ」と、爽やかな顔で笑って欲しいもんだ)。
 コンクリートの都会で、分刻みのスケジュールで、自分の顔があちこちにあふれていて、おかしくならないほうがおかしい。いいひとこそ、苦しい。
 過ちは過ちだけど、ゆっくり休んで欲しいです。
 
 共感した、元東京地検特捜部長の河上和雄弁護士の話の一部。
 <一人のタレントが酔っぱらったという話にメディアも騒ぎすぎで、大臣がコメントまでする問題ではない。笑い飛ばして済ませばいいと思う。>


  

     
      

         


            


       


             

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2009.04.10

244 アザラシの肉

   
 夕方、ヒレカツを揚げていた。
 「手伝いたい~~!!」と息子。
 「危ないよ」と私が言うと、
 「そうだ、油が飛んでも大丈夫なように・・・」
 と言って、台所から出て行った。
 私がヒレカツと格闘(というほどでもない)をしていると、背後に息子の気配。
 ハッと振り返ると、息子は、真冬のコートを着ていた。
 「なに、その格好?」
 「これで、油が跳ねても大丈夫!」
 ボアの付いたフードをかぶる息子を見たのち、フライパンに目を移すと、こんがり揚がっているカツが、アザラシの肉のように思えてきた。

 汗ばむような4月の厨房。
 私、半袖。息子、防寒服。
 油の跳ねる音を聞きながら、
 エスキモーの親子に思いを馳せる。

            

            

                   

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2009.02.11

213 青空ハイ と 母親ネッシー

   実家にて。

   子供たちと走って畑へ行き、

   大根、さといも、キャベツ、にんじん、白菜、ブロッコリー をいただく。

   平らにならしてある 別の畑の上で

   兄弟は、フリスビー。

   フリスビーを奪い合い、

   ふかふかの土の上を 走る走る、倒れ込む。

      なにもそこでやらなくても・・・。

   まるで二人は犬のよう。

   キャンキャンわんわん じゃれ合っている。

   私はどうにも 眠くなり、

   眠れそうな場所を探す。

   温室の中から、ビニールシートを引っ張り出し、

      それはそれは、ウエディングのベールのように

      バージンロードのように

   ずるずる引きずって 地べたに敷く。

   靴を脱いで、

   お昼寝 

 

   見上げた空は どこまでも あおく

   太陽は ポカポカと あたたかく

   自然に笑いがこみ上げた。

      あー、青空の下って、

         地べたの上って、

             気持ちイイ!!

 

   かつて 藤原新也氏がインドにて

   <人間は 犬に食われるほど自由だ>

   と言ったけど、

   私の田舎は ふと

   地べたに寝ころがれるくらい、自由だ。

   帰り道、私の母運転による

   軽トラックの荷台に3人。

   私の母ちゃん(やつらのばあちゃん)

   くねくねと 蛇行する。

   緑の景色が ゆらゆら揺れる。

   ピンクの夕焼け 海を照らす。

   ふと、

   ネッシーの背中に乗っているような

   錯覚におちいる。

   母親ネッシーの軽トラは、

   進む進む くねくね進む。

   私ら3人、大笑い。

 

   やっぱり田舎はいいな。

   こうして育ったから、この幸せも伝えたいな。

   青空ハイ

   と 

   母親ネッシー

   今日も幸せ♪

         

   

    

                 

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2008.12.17

190 夜中の芋虫


 うれしいことが重なって、「寝れない寝れない」とニヤニヤしていた深夜。
 次男が布団をかぶったまま、モゾモゾと前進した。
 その様は、まるでせみの幼虫みたいで、 
 笑いながら、ひとつの場面がよみがえり
 気がついたら、泣いていた。


 次男がハイハイをし始めた頃、
 まだ2歳台だった長男が弟を見て言った。

 「むーくん、虫みたい」

 せっかくの晴れがましい成長の瞬間なのに
 虫みたいとたとえた長男を、「ひどいこと言うなあ」と思いながら、
 不慣れなハイハイは、確かに芋虫か何か虫みたいで、
 「うまいこと言うなあ」と思い直した。
 そして、
 長男と一緒にケラケラ笑った。
 次男もうれしそうだった。


 年中裸んぼで猿の子みたいだった長男。
 ブサイクだけど笑顔がピッカピカだった次男。
 白がよく似合った幼い日の二人は、今はもういない。


 成長は喜ばしいことなのに、
 時に、たまらなく切ない。


 猿と虫みたいだった二人のコンビネーションも、
 疲れ果て、頭の中が真っ白だった自分も、もういない。


 こんな日々がいつまで続くのかと途方に暮れていた、
 人生でいちばんがんばっていた時の私。


 長男と次男とあの時の私。


 まるごとひっくるめて、抱きしめてやりたくなる。
 よくがんばった、よくがんばった。
 あの時があるから、今があるよ。
 今もこれからも、楽しんでいこうね。

                   


 ☆「うれしいこと」については、順に書いていこうと思います。

               

                  

 

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